<プログラム作りは深淵に飛び込むようなもの(6)>エフゲニー・プラトフ

6/7 ステップ解説の部分に訂正を入れました。MSさん、ありがとうございます!


スタビスキー氏は“ツイズル主義”に明らかに反対していましたが
プラトフコーチの場合は、新しい基準として受け入れているのですね。
スケーティング技術の部分はかなり想像で訳していますので
おかしなことを書いていたら、ご指摘頂けるととても嬉しいです。




主観主義に対する公正さの勝利

 ― ジャッジの希望と観客のそれとは一致しているでしょうか。見たいと思っているものは同じでしょうか。

 そうだと思います。ルールがどうあれ、ダンスの美しさを消してしまった人は誰もいません。世界選手権を思い出してみてください。カナダとアメリカのカップル(編集注:テッサ・ヴァーチュー/スコット・モイア組、メリル・デーヴィス/チャーリー・ホワイト組のこと)の演技で、私は思わず立ち上がってしまいました。私は決してそういうことはしないんですよ。原則として、何を見てもなかなか驚かないものでね。でも、あれは申し分のないものでした!テッサとスコットは、長い間怪我をしていたために準備万端とはいかず、終わりの方で失速して、それで負けたのでしょう。でも、あの出だしの素晴らしさと言ったら!1回目の練習で彼らを見たときは、本当の姿からはほど遠かったのに。彼らは名手(master)ですね。集中して、滑り切ったのでしょう。

 新ルールになって、アイスダンスを見るのが退屈になったと言う人がたくさんいます。確かに、最初はそうでした。新しいものをよく知るには、いっぺんにというわけにはいきません。本当に面白いステップを踏むにはどうすればいいのか、それを理解するのにほぼ5年の歳月が必要だったのです。だいたい、最初がどんなだったか思い出してみてください。選手たちは45秒間サーペンタインをしていました。その間、テクニカルコントローラーはステップの一歩一歩を見て、そして哀れなジャッジたちはお互いの顔を見ていたんですからね。でも、ちゃんと習得できました!もう退屈なプログラムはありません。ええ、「ボレロ」や「メモリアル」が現れることはないでしょうが、何か別のものが出てくるでしょう。メリル・デーヴィス/チャーリー・ホワイト組のタンゴは、ものすごくゴージャスでしたよ!もしかすると、各エレメンツは少し力を失っているのかもしれませんが、その代わり、私たちには基準ができました。今ではみんな、選手がツイズルをしているかどうかを見るようになっています。フランスのナタリー・ペシャラ/ファビアン・ブルザ組に起こったことを見てみてください。その一方で、アメリカの小さなマイアとアレクセイ・シブタニが感動的な滑りをして、表彰台に乗りました。

 ― シブタニ組はクリーンに滑りましたが、特別な輝きはなかったと…

 彼らはまだジュニアですから。ゴージャスなジュニアですが、名手には見えませんね。フランスのカップルの方が強いです。でも、アメリカのシブタニ組は、クリーンで、天才的で、軽やかな滑りを見せました。一方、ナタリーとファビアンはひどいミスをしました。

 ステップでレベル4を獲得するためには、片足で4つのエレメンツをクリーンに行う必要があります。ひとつのミス毎にレベルが下がります。フランス組は、最初のブラケットを弧の頂点でやるべきでした。この時、選手はスケート靴のど真ん中ball of foot(足の指の付け根のふくらみの部分)、つまり、ちょうど重心があるはずの部分で立つことになります。ところが、ファビアンは不正確な入りをして、後ろへ放り投げられてしまいました。スケート靴はターンしたのに、彼はターンしなかった。重心が反対側に残っていた。そう、事実上、別のリンク(円?)に残っていたわけです。この転倒により、彼らはほぼ10~11点失いました。このミスのせいで負けたのです。しかし、得点差はごく僅かで、3位と4位とはたったの0.25点差でした!ジャッジの誰かがもう少し高い点をつける可能性もあったわけで、その場合、あのような転倒があったフランス組が3位になっていたことになります。でも、すべては非常にフェアでした。ついに公平なものになったのです。

 ― モスクワの世界選手権で際立ったのは、ジャッジングだけではありません。こんなに短期間で、これほどうまく大会の開催準備ができると、あなたは思っていらっしゃいましたか。

 怖ろしい出来事がありました。私たちはテレビの前に座って、日本の惨状をすべて見ていました。悲劇です。私は日本が大好きで、日本へ行くのがいつもとても楽しみなんです。ユニークな社会構造で、日本人はアリのようであり、あらかじめプラグラムされた機械のようです。そして、日本での開催が中止になったとき…事実上すでに存在しない選手権の準備をするのは、非常に困難なことでした。しかし、ロシア政府とISUは、モスクワが大会を受け入れることを請け合い、私たちは大喜びしました。スピーディーでクオリティの高い開催準備ができる国があるとすれば、それはロシアだけだと私には分かっていました。

 ISUは全選手とコーチに対し、もし運営側に何か至らない点があっても非難しないよう要請を出しました。大会を4週間足らずで準備するのは実際のところ不可能だし、何かミスがあるだろうということはみんな理解していました。でも、こちらへ来て、もう一日目にみんな「ワオ!」と言ってましたよ。ロシアは、ファンタスティックなレベルで選手権を行えるだけのことを、全てやっていました。それに、我が国の観客は最高ですね。ライバル国の選手が登場しても、その選手を応援し、音楽に合わせて手拍子をするのですから。

 ― それは違うでしょう。フィンランドのファンたちのことを思い出してください。あそこの音響(観客の大声援)は本当に影響力がありましたよ。

 仰るとおり、フィンランドにも良いファンがいます。それでもやはり、我が国のファンとは比べられないのです。ロシアのファンには文化的な教養があります。舞台やバレエを観に通っていますからね。そう、これは明らかにニセ物だと思えば拍手をせず、逆にハイレベルな演技を見ると…モスクワでは、意見表明がはっきりしています。でも、キエフ(※ウクライナの首都)もそれに負けないと思います。

 (つづく)

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この記事へのコメント

  • makiko

    おもしろい、おもしろいね、ecoさん。
    この記事まだ続くかと思うとわくわくしますよ。
    中身、濃いですね。翻訳ありがとうございます。
    ロシア人を良く知らない私は、見た目からなんかいかつい身体した人たち(大きい男の人多いじゃないですか・・)で、冷たそうに見えてたんですけど、今回のワールドの日本への気遣いがあちこちに感じられて温かいハートの持ち主が多い国なんだな~と嬉しくなりました。(自分ものすごく単純ですな)
    ウィアーがロシア好きなのも判った気がします。
    まあ、ロシアとしては自国開催によって得るものはしっかりGETしましたけどね(笑)

    「観客に見る目があり本物と偽物を区別する」
    歴史のある国の人から聞きたかった言葉です。

    2011年06月03日 04:06
  • るしー

    本当にいろいろと話してくれていて面白いですね。
    ecoさまががんばりたくなるのがわかります。
    各ステップの形って素人には訳のわからない曲線ですよね。それを正確にひとつひとつ踏んでいくなんて、もう考えただけで頭がコンガラガッチャンです。

    訳の問題ではないと思いますが、「本物と偽者」はちょっと誇張過ぎる言い方かなと思います。
    バレエの舞台に偽ダンサーがいるとは思えませんし、フィギュアだって国の代表選手が偽スケーターな訳がないですから。
    熟達したものと未熟なもの、上手と下手の区別というのが適切でしょうね。
    骨董品や美術品なら本物と贋作があります。
    だましたり、欺いたりを目的としたものを偽者・物といいます。
    ダンサーや選手に対して絶対に使うべき言葉ではないと思います。
    自国自慢でちょっと口が滑ってしまったのでしょうかね。
    2011年06月03日 21:53
  • eco

    makikoさん
    楽しんで読んで頂けてるようで良かったです^^
    私はクラシックファンなんですが、ある時、日本ではいちおう超有名なオーケストラのコンサートに行って、一度も拍手をしなかったことがあります。明らかに手抜きだと思ったんです。でも、周囲は拍手喝さいの嵐で、ブラボーの声まで飛んで…モスクワのお客さんならきっと、私と一緒に「し~ん」としてくれたんじゃないかと思うんですよね(笑)。

    今回のモスクワ世界選手権には、ソチ五輪や今後の日露関係など、政略的なものも少なからずあったとは思います。でも、ロシアの人は、日本人が思っている以上に日本に親しみを持ってくれているのも事実のようです。連盟として「詩」を贈ってくれるなんて、本当に素敵ですよね。

    翻訳はあと2回で終了予定です。だいぶへこたれてきてますが、がんばります~
    2011年06月04日 01:39
  • eco

    るしーさん
    いやいや、訳の問題かもしれません…これは「ハイレベルな"演技"」に対しての「ニセ物」という意味で、ダンサーやスケーターという"人"のことを言っているわけではないのですが、この訳では誤解を生むでしょうか?
    あと、「偽物」はキツ過ぎると思ったので「ニセ物」にしてみたんですが、あまり意味がなかったでしょうか(汗)。それ以外の訳語としては、「嘘、でたらめ、いかさま、インチキ、見せかけ、でっち上げ」等が考えられますが、どうでしょう?どれもこれもヒドイ言葉ですが。。
    2011年06月04日 01:40
  • るしー

    やっぱり本人の言葉の選び方だと思いますよ。
    演技を対象としているとしても、「本気を出していない」「本調子ではない」「未熟な」というべきでしょう。
    偽の演技=欺くためにやっている演技ということになりますから。
    日本人がアリみたいとか、他でもちょっと誤解を招くような単語を使っているので、他意はなくとも(あるのかもしれませんが)そういう人なんだと思います。

    聞いた話ですが、新年には定番の超有名なオーケストラは、サブメンバー(2軍・3軍的な)がツアーをすることもあるそうです。それでも正式な団員ですから偽者とはいえませんが、手抜きと未熟はあるかもしれないですね。

    2011年06月04日 10:29
  • るしー

    気になったので、当該語の英訳を見てみましたら、やはり下品で不適切な言い回しのようです。本人の問題ですね。

    プロのショーならまだしも、アマチュアスポーツ競技会の選手の演技に対してすら、良くない演技だからとシビアな態度をとるのは酷ですよ。
    選手がよく、日本の観客は温かいと言いますが、私はその方がより美徳だと思います。
    実際先のロシアワールドでは、ロシア人観客のロシア選手への声援は大きかったです。
    が、他のほとんどの選手が演技後に四方に挨拶している時には、すでに拍手はありませんでした。日本ではこの時までしっかり拍手で送りますよね。
    良し悪しを見極めた上での拍手のありなしという点でも、疑問がありましたよ。やっぱり自国選手が1番の拍手ですし。当たり前のことですが、それが結局のところの真実ですよね。

    まあ、お国の大事な自負なんだろうと受け取っておきます。
    (美しい言葉にもプライドを持ってほしいもんですが)
    2011年06月04日 23:16
  • kiki

    はじめまして。ロシア語という大変難解な言葉を訳していただき本当にありがとうございます。毎回楽しませていただいてます。プラトフ氏には長野のNHK杯でお会いしたことがあります。オリンピックの頃から比べれば、大分ふっくらされて様子が変わられましたが、短いやりとりにも暖かく、おおらかな人柄が感じられ、また瞳の奥にどこか茶目っ気を隠されていそうなステキな方でしたよ。

    以前のインタビューでも日本、ことにオリンピックの思い出の地である長野を愛されていることや、高橋選手の印象を語ってくださってましたね。
    また近いうちに彼の教え子達とともに日本を訪問してくださることを期待してます。
    2011年06月06日 01:13
  • MS

    こんにちは。以前コメントさせていただいたMSです。相変わらずNJとNYを行き来しつつ滑ってます。いつもロシア語での詳しい解説を翻訳していただいて、助かります!
    確かに、アリソンは最近パートナーなしでIceHouseに来てて、クリスとキャシーと一緒にオフ・アイスのトレーニングとかしてますから、Otarとのアイスダンス組解消は決定的なのかな、という感じですね。残念。

    ちょっと気になっていたので、今回の記事の技術的な説明の部分で、用語を補足してみました。いかがでしょう?

    …この時、選手はスケート靴のBall of foot(Notど真ん中)、つまり、ちょうど重心があるはずの・・・重心が反対側に残っていた。そう、事実上、別の円(Notリンク)に残っていたわけです(?)。

    今ササッと日本語での用語解説があるサイトをググッてみたんですが、どれもあまり正確には解説していないようです。英語のWikiとかの方が正確&細かく説明してますね。
    あと、こちらのサイトはご存知ですか?
    画像もありますし、ロシア語/英語での各エレメンツの名称もあって、翻訳の際に便利かと思います。
    http://tulup.ru/elements.html

    次の記事も楽しみにしています!
    2011年06月06日 23:03
  • eco

    るしーさん
    そうですね、「日本人はアリみたい」というと、フランスの元クレソン首相を思い出しますね。「美味しそうな名前のクセに嫌なヤツ!」と思った記憶があります(笑)。でも、プラトフ氏はクレソンとは違って、本当に日本のこと愛してくれてるみたいです。2008年のインタビューでジョン・カーが「彼(プラトフコーチ)も大の日本好きなんだよ!僕は彼ほど日本が好きな人に会ったことがないくらい(笑)」(http://iceblue.cocolog-nifty.com/figure/2008/10/11-8db1.html)と発言しているぐらいですから、日本の観客=日本人の美意識についても、一定以上の理解はお持ちですよ、きっと^^
    いつの日か、すべてを払しょくしてくれるような、品格に満ちたプログラム作ってくれることに期待ですね。

    ISU総会まであと3日。ジェーニャの資格が一発ですっきり回復されますように!
    2011年06月07日 00:31
  • eco

    Kikiさん
    コメントありがとうございます^^
    ええーっ、プラトフさんと直接お話されたんですか?!うらやましい~!キス・アンド・クライのプラトフコーチ、いつも素敵ですよね。そうなんです、このインタビューには茶目っ気があるんです。私にはそれをお伝えする力が足りないので、どうかその瞳の奥を思い出しながら、うまく補完して読んでやってくださいませ。良い訳ができるようにちょっとずつ頑張りますので、これからもよろしくお願いします。
    2011年06月07日 00:32
  • eco

    MSさん
    Привет! お元気でご活躍のようでなによりです^^
    アリソンの情報をありがとうございます!そうなんですね、やっぱりオタルとはカップル解消なんですね…キャシーが公式ブログで、「アリソンのボーイフレンドのミハルが来てる」って書いてるのは読みましたけど(笑)、ミハルと組むわけにもいきませんし、どうするんでしょうか?ぴったりの相手が見つかるといいですね。

    そして、用語の補足ありがとうございます!!Ball of footは、きっとそれなので訂正します!円の方は、катокという単語なんですが、どうしてもそれに近い訳語が見つからなくて…とりあえず「?」で保留にさせてください。すみません。また勉強しておきます。

    ご紹介のサイトはすでに「お気に入り」に登録済みです^^ こういうのを見ているうちに、最近、自分でもちょっと滑りたくなってきてたりします(笑)。近くにリンクがないのが残念!
    2011年06月07日 00:33

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